2月2日(単独ライブ3週間前)
この日が関東の新曲、『薔薇の花 咲く頃』の初練習日となった。
渡辺さん考案の振付を見るのもこの日が初めてだった。
今回の披露メンバーは、卯月さん、山田さん、渡辺さん、 大森さん、櫻庭、日下部、小木曽の7人。
歴の浅い11期が3人とも入ったこともあり、 多くの先輩方はこの短期間で本当に大丈夫かと不安に思っていたと 思う。
自分はどうだったかというと、 監督が関東に新曲を書きおろしてくださったことがまず嬉しかった し、
その上、「披露メンバーに選ばれたから頑張ってね」 と大木さんから連絡が来た時は
不安よりも喜びの方がずっと勝っていた。
そんな浮かれた私の気持ちは、 練習を始めて数分もたたないうちに大きな不安へと変わった。
歌詞、メロディー、振付、 この日の練習では何一つきれいに揃うことはなかった。
踊ることに必死で歌詞が出てこない。
歌う余裕がない。
何度やっても同じところで同じ振りを間違える。
一つ覚えたと思ったら一つ前に覚えた振りを忘れる。
いつも以上に汗をかく櫻庭さん。
終始戸惑いの表情の卯月さん。
徐々に目から光が消えていく大森さん。
新曲を練習すること自体が初めてだったが、 このままではまずいことはなんとなく分かった。
練習が終わった後、後ろで見ていた小橋さんが「 もっとボロボロかと思ったけど、意外となんとかなりそう」 と言ってくれた。
一瞬ホッとしたが、 すぐに気持ちを切り替えてたくさん練習しようと心に決めた。
山田さんはこの単独ライブをもって虹組ファイツを卒業する。
山田さんと一緒に披露するこの新曲を「 なんとかなって良かったね」 で終わるステージにはしたくないと思った。
2月9日(単独ライブ2週間前)
ところどころ間違えるが、 曲のテンポにもついていけるようになり、 踊りながら歌うこともできるようになった。
ただ、それは初回の練習に比べればの話で、 とてもステージで披露できるレベルではなかった。
何度か曲で合わせた後、見かねた監督から指導が入った。
腕の上げ方、伸ばす腕の角度、ポジション移動時の脚の出し方、 みんなバラバラで美しくない。
そして、監督は真剣なトーンでこう言った。
「渡辺がどういう意図でこの振付にしたか考えなさい」
私はその言葉を聞いてハッとした。
振付の意図を考えずに踊っていたことが、 振りを覚える速さを鈍らせ、
全体がバラバラで美しく見えない原因だと気付いたのだ。
それまでは動画の渡辺さんの動きを真似することだけを考えて練習 していた。
ただ、真似しようと思ってもなんだかぎこちなく、 なかなか体がついてこなかった。
動画の渡辺さんが緑色のTシャツを着ていたので、 薔薇じゃなくてキャベツじゃねぇかとやつあたりもした。
1人で踊るんじゃない。
7人で薔薇を表現して踊るんだ。
次の日からは渡辺さんが監督の歌詞をかみ砕いて振りを考えたよう に、
自分も渡辺さんの振りの意図を考えて練習した。
そして全体で見た時に薔薇のようにしなやかで美しく見えるように 意識した。
初めはあんなに大変だと思った歌と踊りは、 自然と歌詞が口を衝いて出て、体も動くようになった。
それからはとにかく練習が楽しかった。
本番一週間前のリハも笑顔で踊り切った。
リハが終わった後、 たつきちゃんが2番Aメロの立ち位置が合っているかを確認してき た。
それまで飄々としていた彼の真剣な姿が見られて嬉しかった。
2月23日、本番当日
『薔薇の花 咲く頃』は昼公演と夜公演の両方で披露する。
どちらかの公演にしか来られないお客様もいるため、 両公演で披露し一人でも多くの方に見てもらえると思うと、
改めて披露メンバーに選ばれたことをありがたく感じた。
出番の前にもメンバー同士で振付の最終確認をする。
いいステージにしたいと思う気持ちはみんな一緒だ。
そして、その時がやってきた。
山田さんの周りを6人が片膝をついて囲む。
山田さんが優しい声で曲振りをする。
「それでは聞いてください。『薔薇の花 咲く頃』」
山田さんはきっとこの中の誰よりも大切に、 そして特別な気持ちでこの曲を歌い、踊っている。
サビの後半、 センターで踊る山田さんの姿を後ろの立ち位置から見る。
しなやかで美しい。
自分の踊りに必死だったらきっと見られなかっただろう。
この時、今日までたくさん練習してきて良かったと心から思った。
と、 ここまであたかも本番は失敗せず完璧に踊ったかのように書いてき たが、
2回とも細かいミスはあったし、歌詞も間違えた。
たつきちゃんと「途中でアイコンタクトしようね」 と話していた2番Aメロは
2回とも目が合うことなく終わった。
ただ、これはこれで今の11期らしくて良きだと思っている。
まだまだ精進しなくては。
観客の皆様の目にはどう映っただろうか。
監督が「山田(専用)の曲ではなく、虹組ファイツの新曲です」 と言っているので、
今後またどこかで『薔薇の花 咲く頃』を披露することはあると思うが、
山田さんが卒業された今、 今回と同じメンバーで披露することはないだろう。
あの『薔薇の花 咲く頃』は特別だ。
今回の単独ライブで披露した『薔薇の花 咲く頃』が、見に来てくださった皆様の記憶に
一日でも永く咲き続けたらと思う。
本番だけでなく、 この練習の日々は私の中でずっと色褪せることはない。
そう信じている。
背番号128番
小木曽 啓介
※薔薇の花 咲く頃の歌詞はこちらからご覧になれます